恋愛の風景を見て思うこと

こんな話題を振るガラでもないが。


駅の改札口の近くで揉めているカップルである。多くは黙りこくった女の子を、男のほうが盛んに何事かを説得していたりする場合が多い。いや、最近は性別的には逆の場合もあるのだけれど、目にするたびに、「お、やってる、やってる」などと苦笑する。苦笑するというのは、あまりに典型的な「恋愛の風景」が、21世紀になっても、不滅であることへの苦笑であったり、過去の自分の乏しい経験の中の風景がそこに重なって気恥ずかしくなるからでもあるだろう。


あれは不思議なもので、2人の側を通り過ぎる一瞬の刹那に、「ああ、これはもうダメだよ。」とこちらにはわかってしまうことがある。そもそも、それほど複雑な会話が繰り広げられているわけではないから、まあ突き放して言うと類型的なパターンに嵌ってしまっているんだと思う。予想できるでしょ。テーマやレイヤーが。


山拓北朝鮮訪問について、どう思うんだよ。はっきりお前の考えを聞かせろよ」
「そういうあなたの質問自体がブルジョア日和見主義を一歩も出ていないって私は言ってるのよ!」


なんてことで、揉めているカップルは、「青春の墓標」の時代には多かったのかもしれないが、まず今はいない。(当たり前)
不思議なもので、側を通るだけで、当事者同士にはわからない、2人の一瞬の迷いとか、絶望とか、倦怠とか、執着とか、ずるさとか、わかってしまうんだな。僕も年をとった。


そうした「改札で揉める恋愛の風景」が、なんで今更気になるかというと、前述した理由のほかにも、詰まるところコミュニケーションの不思議さというか、厄介さというか、不毛なところとかが、ぎゅっと凝縮されているように思うからだと思う。また理屈っぽくなってきたな。でも続ける。


どうしても男の立場に感情移入しやすいんだけれど、イイヤツそうな奴ほど、必死になって女の子を理屈で説得しようと試みる。あるいは、彼女の不可解あるいは不誠実な行動の「理由」を聞き出し、それを「説得して」ある方向に変えさせようと試みる。
これがどんなに空しい行為なのかということは、年を重ねるごとにわかるのだが、不可解な人の心の移り変わりだとか、変節に対して、なす術を持たない男の子というのは、しばしばそれを自分の論理で理解し、自分なりに方向を出そうとする。そして、それへの協力を彼女に求める。それは痛いほどわかるのだが、多くの場合、これほど空しい行為はないといううことである。


「俺のどこが駄目なのか、言ってくれ」

とか

「結局つまりお前の言うことはこういうことだろ?それはおかしいだろ?矛盾してるよな?」


あーあ、と思う。ポンポン。もしもし?
肩を叩きたくなる。

経験則的にはまず無駄である。「よせよせ。時間の無駄」とか思う。多くの場合、彼女もしくは彼の心が離れかけているという問題が中心にあるから、それをどれほど多弁に各論で論理的に打開しようと思っても、空しい。それはそういうものだと思う。


僅かでも希望があればともかく、多くの場合、「あーあ。それもうほっといてくんないかな」というオーラが相手からびんびんに出ている。第一、男の子が、前につんのめった姿勢で鼻息荒く相手とコミュニケーションを急いでもいいことはない。これは恋愛に限ったことではないが。その刹那を外したほうがいいこともある。


そもそも、なぜ改札の近くでカップルは揉めるんだろう。昔は携帯電話もメールもなかったから、今ここで話をしないと間に合わないというのがあった。しかし今は違う。後からメールすることもできるし、いつでも携帯で話の続きもできる。(但し相手が電話に出てくれればだが)そう考えると、あるいは僕の頃と比べれば、切羽詰った「改札口のカップル」の数は減っているのかもしれないが、数を数えたことが無いのでそれはわからない。


誰に対しても、煮詰まった状態で無理に話をしようとしても無駄なのは、経験則でだんだんわかってくることで、そんなときにはちょっとお茶を飲んでから話すとか、七草粥を食べてから話すとか、2,3日時間をおいてから話すとか、いっそ先送りにしちゃうとか、年を重ねてくるにしたがって、誰でもそうしたやり過ごしのテクニックに長けてくるのだが、それはちょっといやな部分でもある。

若いと経験が少ないし、過去のケースの蓄積もないから、いったん「てんぱっちゃった」男は、ちょっと時間を空けることもできない。ただひたすら前に突き進む。このことはしかし、無常だなあ、と思うことがある。若く、いくらでもまだ先に時間のある者ほど、あせって先に突き進み、実はそろそろ残りの時間が見えかかった年代になってからようやく「待つ」ことを覚える。

本当は、残された時間が少ない者のほうがあせるべきであり、先に豊潤な時間が控えている者は落ち着いてもいいと思うのだが、残念ながら世界はそのようにできていない。

そういえば女の子が男の子を追い詰めているケースの場合、というのはよくわからないが、おそらく求められているのは「理屈での説明」ではないだろう。そんな対応を男がしようとしても、姑息な言い訳ととられるだけである。じゃあ、そのケースではどうすればいいのか。


それは未だによくわからない。

まずは空でも見て、それから深呼吸だろうか。

(ここをうまく説明できるようになると、いよいよ先が見えてくるように思うから、あまりわかりたくもないな。)