釈迦と孫悟空


孫悟空にあるあの話が子供のころから気にかかっていた。




(引用開始)
悟空は生まれてから今までの生い立ちを話すと、釈迦は高笑いをしながらこう言った。

「玉帝は1億年以上も修行をして、今の地位を築き上げられたお方です。お前のようなサルから成り上がった者には、到底相手になりません。」
「俺様は、72変化(へんげ)の術をすべて会得した。その他に筋斗雲もある。乗れば一瞬にして10万8000里飛べる。怖いものはない。恐れいったか。」
「ならば、悟空。ここでひとつ賭けをしないか?」
「何だ?」
「私の右の手のひらからあなたが飛び出すことができれば、私が玉帝に天界を譲り渡すよう、話をつけましょう。どうですか?」
「そんな、簡単なのか?俺をバカにするな!一尺足らずの手のひらなんて朝飯前よ。それっ。」
悟空は筋斗雲に飛び乗り、世界の端を目指した。しばらくすると、雲の間に5本の柱が立っていた。近くに寄ってみると...。

「ははぁ。これが世界の行き止まりだな。来た証拠に名前でも書いていくか。」

悟空は、自分の毛を1本抜いて筆に変えると、真中の柱に「斉天大聖」と記して、ついでに「オシッコ」までもひっかけていった。

「これで、よし。」
「悟空よ、いい加減にしなさい。」
「なんだよ。俺様は今、世界の端まで行って来たんだ。しかも、そこにあった柱に、斉天大聖って書いてきたんだぜ。疑うなら、いっしょに見に行こう。」
「いくまでもありません。」
「何でだ。」
「私の手のひらを、よくご覧なさい。」
「・・・・・。これって、どういうこと?」

悟空は目を凝らしてよく見てみると、釈迦の手に中指には「斉天大聖」と書いてあり、しかも中指の根元には先ほど悟空がオシッコした後があり、まだ乾かず湯気が立っていた。 悔しい悟空はもう一度行こうと、筋斗雲に乗り込もうとする。しかし、それを見ていた釈迦は怒り、自分の5本の指を「五行山(ごぎょうざん)」という山脈に変え、悟空を山の下敷きにして閉じこめてしまった。 悟空はもがき出ようとするが、釈迦が山の頂にお札を貼ると、完全に動けなくなってしまった。そして、番人を呼びつけ、悟空の腹が減れば「鉄の玉」を食わせ、のどが渇けば「熔けた銅」を飲ませた。
こうして、悟空はここで、長い年月を暮らさなくてはならなくなった。

 (孫悟空の「西遊記」 by Digit@l孫悟空) http://www1.ttcn.ne.jp/kozzy/ より

(引用終了)




さて、子供の頃考えたのはこういうことである。


釈迦の手のひらの向こうには本当に行くことができないのだろうか。

釈迦ですら実は、何者かの手のひらの上。
握りつぶすつもりが、何者かに握りつぶされてはいないのだろうか、  と。



頭の中では幾重にも釈迦と、それを包むより大きな「釈迦のようなもの」が重なって、この世の果てまで続いていた。


僕はその光景を芯から恐ろしいと思った。




あなたはどの釈迦なのだろうか。

そして私は?