友達の夜


中村中を聴いていたら思い出した。


行く場所がなくなった夜が、思い起こしてみると今までに2回くらいあった。
行く場所がないのなら、どこへも行かずにじっとしていればよさそうなものだが、そうすることもできなくて、いずれも友人のところに、夜更けにふらふらと押しかけていった。


一度目は差しさわりがあるので省略して、二度目の話。


ある事情で本当に行き場を失ったというか、自分の部屋に入ることができなくなり、頭の中で友人の顔を交互に思い出した挙句、僕が選んだのは池袋の近くの街に住んでいた、彼の顔だった。2時を過ぎていたろうか。松原から歩いていった。もちろんタクシーに乗る金もなかった。


ドアを開けてくれた彼は、さすがに眠そうだったが、黙って招き入れてくれた。
すると奥で誰かが起き上がる気配があった。若い男の子だった。


僕の友人は、同性愛者であったのだが、奥で起き上がったのは彼のその当時の「恋人」だった。僕も顔見知りの人物である。


「あ、悪かったな」


と戸惑って帰ろうとする僕を引き止めた彼が無言で指差すほうには、もう僕の寝る場所が用意してあった。


「ごめん」

とうなだれて布団に入る。彼は無言で何も聞かずに、部屋の奥のほうへ帰っていった。


自己嫌悪に疲れて泥のように眠った。
翌朝、彼はまた何も聞かずに僕をおくり出してくれた。

前夜のごとく相変わらず疲れ果ててはいたが、少し元気になっていた。


誰でも行く場所のない夜というのはあるものだろう。



例によって遠い遠い昔の話である。



その後、彼の「恋人」は病気で死んだと聞いた。




「友達の詩」 中村中


触れるまでもなく先のことが
見えてしまうなんて
そんなつまらない恋をずいぶん
続けてきたね
胸の痛み治さないで
べつの傷で隠すけど
かんたんにばれてしまう
どこからか流れてしまう
手をつなぐぐらいでいい
並んで歩くくらいでいい
それすら危ういから