井戸
深夜、月が見えないので井戸の底に水を求めて降りていった。
闇の中に聞こえる水の音が、あなたの胸の鼓動に重なる。
どくどくどく。
降りても、降りても井戸の底にはたどり着けない。
おかしい、こんなに深い訳はなかったのだが。
疲れて手を止め、頭上を見ると、いつの間にか雲の間から月が見えている。
井戸の深い奥から仰ぐ月は、闇に闇を重ねた黒に、ただ一滴の光の水を、叩きつけた絵画のようだ。
どくどくどく。
どんなに下を覗き込んでも、井戸の底は見えない。
ただ青白い月の光が、おそらくは僕自身の影を落としこんでいるだけなのだ。
あなたは、どこにいるのだろう。
僕は、どこにいるのだろう。