真紅の月

仮の世の海に、真紅の月が沈んでいく。
打ち寄せる波の音が、その赤に被さる。
足元の小さな貝殻が、その波の音を抱きかかえている。

空にある幾千の声を数えて、宙にある言葉を数える。
胸にある幾千の記憶を数えて、心にある表情を数える。

命を生み出したのは暗い海。
暗渠の水に僕はまみれていたのだろう。
その夜も、空には月が架かっていたのだろうか。

両手を暗い海に向かって精一杯伸ばしても、あの月には届かない。