2007-11-29 真紅の月 仮の世の海に、真紅の月が沈んでいく。 打ち寄せる波の音が、その赤に被さる。 足元の小さな貝殻が、その波の音を抱きかかえている。空にある幾千の声を数えて、宙にある言葉を数える。 胸にある幾千の記憶を数えて、心にある表情を数える。命を生み出したのは暗い海。 暗渠の水に僕はまみれていたのだろう。 その夜も、空には月が架かっていたのだろうか。両手を暗い海に向かって精一杯伸ばしても、あの月には届かない。