月は笑う


気がつけば僕は悪意に囲まれている。
僕は歯を剥きだしにして、必死にそれに抗する。
気がつけば僕は善意に囲まれている。
僕は精いっぱいのサービス精神でそれに応える。

月の夜。
闇の夜。

僕は一人で野に臥している。
誰もいない野に臥して、一人で月を見ている。
世界の中で、あるいは月を見ている者がどれだけいるかは知らないが。
僕が月を今ここで見ていること。
それだけは、あなたに知ってもらいたい。

人生は。
あるいは世界は。
単純ではないし、夢見る季節は、とうに過ぎている。

しかし
しかし

僕は何かを見落としていないか。
まだそこにある何かを、見えずに時を過ごしているのではないか。
そんな思いは、あるいは風に散る。
あるいは無為に消えていく。

いいか、君。
時間は永遠ではないのだ。おわかりか。

諾と誰かがどこかで呟く。
諾と誰かがどこかで呟く。