海の向こうで親王が生まれたと聞いた


強い日差しは9月になっても衰えることはない。季節はずれの夏休みをとってやってくるのは日本人。女・女・女。
たった人口16万人のこの島にやってくる観光客は年間100万人以上。観光収入の9割以上が日本からの観光客によるものだ。メインストリートの端々には日本人の女の子を何とかナンパしようという現地の若者が岩礁のように立ち、その間を揃いのブランド物のショッピングバッグを抱えた女の子たちが熱帯魚のように泳ぎ回る。異世界のエッジは、彼女達に従って広がり狭まりゆらゆら揺れる。


その日はちょっとしたニュースがあった。彼女たちの故郷で41年ぶりに親王が誕生したのだ。2000キロ彼方の彼女らの国では大騒ぎになっているらしいが、その熱気も熱帯の荒ぶる風に遮られてここまでは届かない。ただ、さっきからテレビだけは、遠い銀座の街角で号外が配られている様子を何度も何度も流している。その様は、太古の世界を眺めているようでもあり、銀河の遠い星の光景を見つめている様でもある。


見たこともない国家の見たこともない僥倖。
いやそうではないのだが。


星の降りた場所。選び抜かれた全ての不幸と全ての幸福について思い、この男子の稀有の宿命と未来につかの間思いをいたしながらも、心は海の藍へといつしか帰って行く。