佐々木君と僕の秘密


小学校5,6年の時の話である。佐々木君はスケベで勉強が出来なかった。その上太っていた。
通信簿なんて1と2ばっかりだ。1科目を除いて。

いつも女子からは嫌がられていた。きゃーきゃー騒いで逃げると余計悪さをする。
スカートをめくったり、いけない場所を触ろうとしたり。
子供がどうやってできるかについて、どこかから仕入れてきて頼みもしないのに、
クラス中に触れ回ったのは、佐々木君だ。

あの当時の悪ガキのする悪さはみんなする。まあそういうどうしようもないガキだった。だが。




佐々木君はピアノの天才だった。いや、どのくらいの天才だったかは後から知った。

音楽の時間には、教師に代わって初見の楽譜を楽々その場で弾いた。
学年で一番ピアノがうまいのは佐々木君に決まっているので、その他の「女の子」で2番争いをした。

いや、この佐々木君の落差は凄かった。クラス替えになると僕は何も知らない、
他のクラスから来た生徒の反応を見るのが愉快でならなかった。

お前ら、佐々木君を知らないだろ。ただのスケベだと思うなよ。音楽の時間を待ってろよ。

果たして音楽の時間。佐々木君を前から知っている子達は得意になって、まるで自分のことのように教室を見回した。
ただの馬鹿でスケベな子供だと思っていたほかのクラスの子供たちが、予想もしない佐々木君の演奏の凄さに、あんぐりと口をあけている。

やった!

自分のことのように、ざまーみろって思った。




佐々木君が、ウィーンに留学して向こうで著名なピアニストになったと聞いても、僕たちはあまり驚かなかった。
だって佐々木君である。天才だってみんな知ってた。
(でも、あそこまでの天才だったとは、やっぱりちょっと驚いたけど。)




何年か前。小学校の同窓会を開いた。
担任の教師は、驚くほど背が小さく、年をとってしまっていたけれど、ウィーンに行った佐々木君の話が出たとき、
僕たちを前に驚くべきことを言った。





「佐々木君ってそんなにピアノがうまかったんだね。知りませんでした。」



え?


え?


ぎゃあああああ~~=~===))()('()'(&('&('&%'(%'&%&'$%&$&%#$&%$#%$!!!!!!!!!!!!!!!




みんなが絶叫した。
いい年になったおじさんやおばさんが絶叫したんだ。

先生、何で???

考えてみれば音楽だけは、音楽の専任の先生がいた。
先生はほとんど佐々木君のピアノを聴いたことがなかったという。
式典なんかで佐々木君が弾くのは聴いたことがあるけれど、ただなんとなくピアノが弾ける男の子としか認識していなかったのだ。




「じゃあ、先生は・・・」





僕が言いかけて止めた。
みんなの頭の中に同じフレーズが走ったはずだ。



「じゃあ、先生は・・・あの佐々木君を、ただの馬鹿でスケベなどうしようもない小学生だとずっと思っていたんだ?」




驚いたなあ。

でもここで話は終わらなかった。その教師は、にこにこしながら、こう続けたのだ。




「佐々木君は本当にいたずら者でね。前のクラスの先生から申し送りが来ていたんですが、ピアノのことは
あんまり書いてなかったなあ。」


「前のクラスから申し送りのあった子は2人いてね。
あのとき。・・・・・・・・・・・・・・まあ・・・・・・・もう言ってもいいかな。」


「佐々木君とね、・・・・・BigBang君です。」



え?


え?


僕?


なんで?

こう言っては何だけれど、僕は佐々木君とは違って、勉強は出来た。
そんなに問題行動を起こした記憶も・・・・ない・・・・・・はずだ。
(このあたり自信はない)

でもまさか佐々木君と同列にされるなんて・・・・(ピアノを除外した佐々木君とだ)



「先生。なぜですか?どんな申し送りだったんですか?」


教師は、皺の増えた顔で、またにっこりと笑った。





「そうねええ・・・どうしようかなあ。。。。」


僕は言葉を待った。



「それはね。内容は・・・・・いや、やっぱりまだ言えないねえ・・・まだ早い。・・
あと10年くらいしたら教えてあげるよ」






10年って・・・先生!!今幾つだと思っているんだよ。
先生と僕が、一体いま幾つだと???


悪いけど先生。





悪いけど






そんなこと言ってたら、そのうち先生、死んじゃうよ。




つまりこういうことだ。


佐々木君と僕に共通点があった。


僕には、自分にはわからないけれど、何かとてつもない問題点があって
それは小学校を出てから何十年も経っているのに、未だに僕には教えられないような問題点らしい。




ピアノの天才・かつお馬鹿でスケベな小学生の佐々木君は、そういう意味で、僕にとって益々忘れられない存在になったのである。



つまり。

その何だ。

この騒ぎの中でなぜか今日、小学校の頃の佐々木君と僕のエピソードを思い出したというわけだ。