物語

雨の音-----AZABU

「こんばんは」それでも彼女は微笑んでいた。あるいは泣いていたのかもしれなかったが、その表情は伺えなかった。というよりも表情で読み取るなんてここでは不可能だ。そう思いついて俺は1人で苦笑いしたが、不似合いな行為だと思い、あわてて唇を噛む。し…

「私、落ちるわ。」----Kanda

Kandaは狂おしいほどの桜の中にあった。 駅前に出来た新しいカフェの窓一面に広がる桜の大樹。次の週末、満開になると誰かがテレビで言っていた。桜を、kandaでこれほどゆっくりと観るのは今年が初めてだ。見れば、まだ新しいカフェの良く磨かれた大きな窓に…

「私、落ちるわ。」----Meguro

俺はキーボードをあてもなくいじり回している。キーボードのEnterキーの横に、小さな染みがある。指の腹でこするが、落ちない。まあどうでもいいか。そうだ。どうでもいい。小さなノートパソコンの液晶が普段より少し青みがかっているのも気になっていた。ど…